永住権の喪失事由
皆さんは永住権を一度取得すれば、日本で永遠に永住(永住権を取り消されることはない)できると思っていると思います。
そして、永住権を取得すると、就労制限がなくなり、在留期限の審査(期間の更新はある。)も必要なく、日本人のように全く同じ生活を送ることができるため気が緩みがちです。
しかし、当たり前のことですが、法律を守らない、そして重大な犯罪を犯す等の問題ある行動を起こせば、永住権を失うことは必然です。
どのような事由によって永住権を失うのか具体的にかつ詳細に説明します。
目次
永住権を失うのはどのような場合
このコンテンツでは、永住権を失う具体例と犯罪がともなった場合の法的効果や犯罪が重大だった場合最終的に日本から退去強制処分になるケースを以下のとおり説明します。
1.再入国許可またはみなし再入国許可を得ずに日本を出国した場合
ほんの数日だとしても、日本を離れるときは「(みなし)再入国許可」を得てから出国するのを忘れないようにしましょう。
2.再入国許可で出国し再入国許可期限までに再入国しなかった場合
日本を出国する前に「再入国許可」を受けていたとしても、必ず期限までに日本に戻らなければ、永住権を失います。
3.みなし再入国許可によって出国し、出国後1年以内に再入国しなかった場合
上掲2と同様、日本を出国する前に「みなし再入国許可」を受けていたとしても、必ず期限までに日本に戻らなければ、永住権を失います。
4.次の事由に該当して在留資格を取り消された場合
・不正に「上陸許可」または「永住許可」を受けたこと
【罰 則】
入管法70条1項1号は,「入管法3条1項1号に違反した者に対しては3年以下の懲役もしくは禁固刑もしくは300万円以下の罰金を科す。 場合によっては懲役刑と罰金刑の両方を科す」と定めています。 一番注意しなければならないのは,「入管法の違反=罰則がある」というわけではないということです。
・90日以内に新住居地の届出をしないこと
引越しをしたときは、14日以内に新しい住所を市区町村役場に届け出る必要があります。
中長期在留者は、来日後の住居地が定まってから14日以内に、入国審査時に受け取った在留カードを持参し、居住地の市区町村役場に住居地の届出をする必要があります。
【罰 則】
住居地を定めた日から14日以内に届け出なかった場合、20万円以下の罰金に処せられることがあります。また、正当な理由なく、新規上陸後、90日以内に住居地を届け出なかった場合、在留資格が取り消されることがあります。
・虚偽の住居地を届け出たこと
外国人が 実際に住んでいない住所を届け出ることは入管法に違反します。
外国人が実際に住んでいない住所を届け出ることは、入管法第22条の4第1項に違反します。
【罰 則】
入管法第22条の4では、外国人が偽りその他不正の手段により上陸許可の証印等を受けた場合や、在留資格に基づく本来の活動を一定期間行わないでいた場合などに、在留資格を取り消すことがあります。
また、届出をしなかった場合には20万円以下の罰金に、虚偽届出は1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処せられることがあります。住居地の届出をしなかったり虚偽届出をした場合には、在留資格が取り消されることがあります。
5.退去強制された場合(退去強制事由)
(1)無期または1年を超える懲役もしくは禁錮に処せられた者
それでは無期または1年を超える懲役もしくは禁錮の罪名にはどのようなものがあるか以下に明示します。
・強盗致死傷罪
・強盗・強制性交等罪
・強盗殺人
・強盗強姦殺人
・放火
・内乱罪
・騒乱罪
・公務員職権濫用などの汚職の罪
・名誉毀損罪
・交通事故の過失運転致死傷罪
【無期懲役】の場合は、仮釈放や執行猶予がなければ、死ぬまで刑事施設から出ることはできません。また、無期禁錮の場合は、刑事施設に一生収容されます。
【禁 錮】は、受刑者を刑事施設に収容する刑罰ですが、刑務作業が義務付けられていません。同じ身体を拘束する罰則である懲役刑よりも軽い罰の位置付けですが、禁錮刑の判決を受ける犯罪自体が少なく、主に交通事故などの過失犯や政治犯で適用されることがあります。
(2)薬物違反により有罪判決を受けた者
・覚醒剤取締法
・麻薬及び向精神薬取締法
・あへん法
・毒物及び劇物取締法
・薬機法
・麻薬特例法
(3)売春に直接関係がある業務に従事する者
永住許可を受けると就労の制限がなくなりますが、売春などの性風俗業に従事することは認められません。
・売春行為の周旋
・困惑などを利用して売春させる行為
・困惑などを利用して売春させて対償を収受する行為
・売春させる目的での前貸し行為
・売春させることを内容とする契約を締結する行為
・売春の場所を提供する行為
・売春をさせる業を営む行為
1.出入国管理及び難民認定法第22条の4第1項
2.永住許可の取り消し事由 入管法(第22条の4第1項)
1号 |
上陸拒否事由に該当しないものと偽り、上陸許可を受けたこと |
2号 |
1号のほか、偽りその他不正の手段により上陸許可等を受けたこと |
3号 |
1号・2号のほか、不実記載の文書の提出により上陸許可等を受けたこと |
9号 |
中長期在留者が転居した場合、90日以内に新住居地の届出をしないこと |
10号 |
中長期在留者が虚偽の住居地を届け出たこと |
6.今後取消事由が審議されているもの(現在日本政府で法案整備段階)
(2024年2月9日日本経済新聞抜粋)
政府方針には「永住許可制度の適正化」も盛り込んだ。これは自民党が2023年12月に示した提言で掲げていた。
いまは虚偽の申告で永住権を得た場合などを除き、一度許可した永住資格を取り消す方法がない。税金や社会保険料の未納付が続いた人は永住許可を出す前の在留資格などへの変更、「定住者」など別の資格への移行といった措置を想定する。
小泉龍司法相は9日の記者会見で「不適切な永住者のあり方を放置すると日本の社会全体が、永住者を受け入れなくなってしまう」との認識を示した。新たな対応で「中長期的にはより多くの永住者の受け入れにつながる」と説明した。出入国在留管理庁によると永住者は23年6月末時点でおよそ88万人おり、在留資格を持つ外国人全体の27%を占めた。10年間で20万人以上増え、在留資格の区分別で最も多い。
新たな「育成就労」は技能実習と比べて技能レベルの高い「特定技能1号」により円滑に移行できる。さらに試験などを通じて熟練労働者と位置づける「特定技能2号」の在留資格を得る道もある。
特定技能2号の資格では家族を帯同でき、在留資格の更新制限がない。永住権も申請できる。新制度を通じた外国人の受け入れが増えればこの対象者も増加する可能性がある。このことが外国人材の受け入れへの慎重論が根強い背景にある。
慎重論は「社会保険料や税の未払いの外国人が多い」との主張が伴ってきた。日本の公的年金・公的医療保険は国籍要件がない。適用の要件を満たせば出身国で社会保障制度に加入しているかどうかを問わず、全員加入する義務がある。
厚生労働省は国民年金、国民健康保険ともに国籍別の徴収、滞納状況の実態は把握していないという。
状況は自治体ごとのデータからうかがえる。東京都豊島区によると21年度の国民健康保険料の滞納率は日本人で7.5%、外国人で39.3%だった。21年度に時効によって消滅した外国人の滞納分の累計額は2億3800万円ほどにのぼるという。
豊島区は留学生ら短期で滞在する外国人が多く、国民皆保険の仕組みの理解が進んでいないとみる。区は複数の言語で納付を呼びかけつつ、滞納者に督促状を送ったり、財産調査をして行政処分をしたりするなどして滞納率抑制に努めている。千葉県船橋市は外国人の国民健康保険料の滞納率が22年度で35.2%だった。18年度の45%より下がっており、市の担当者は「パンフレットや日本語学校を通じた呼びかけなどで制度の理解が深まった結果」と説明する。
政府は22年から「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」を策定している。ここでも許可後に永住者としての要件を満たさない事案に対処する仕組みの必要性を示していた。永住許可の取り消しはこの内容に沿う施策となる。(2024年2月9日日本経済新聞抜粋)
あとがき
永住権は数年前(2019年4月)に入管法(出入国管理及び難民認定法)の大幅な改正により審査がとても厳しくなりました。現在では永住申請許可率も50%を割り込む状況になっています。
しかし、そのような厳しい永住許可を取得しても、ちょっとした不注意で永住権の取り消しになり、その延長線上に退去強制(自国に強制送還になる。)があるという現実はいつも身近に潜んでいます。そして、トピックとして日本国政府は永住者に対して保険料や年金・税金などの社会負担や義務を行なわない永住者の取り消しを審議検討しており、この流れは当然法案が可決成立されると思料します。
したがって、このコンテンツでは永住権は永遠の在留資格ではなく、永住権に与えられた権利に対する義務の履行を怠ればそれだけで永住権も取消になるという身近な現実と、犯罪も含む幅広い取消しの危険性をできるだけ事例を交えながら理解しやすいように作成したので知識としてご活用下さい。
また、永住申請について様々な事情からご自身では不安を感じている方はお気軽に当所までご連絡下さい。
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